
理念経営を推進しているのに、または、いい会社作りを目指しているのにも関わらず、理念が浸透しない、ビジョンが共有できないといった経営者の声を耳にします。
そうした会社の経営者や社員の声を拾っていくと、以下のようなものが典型的です。
社長や役員の声
「毎朝、理念を唱和しています。」
「クレドカードを作成し、社員に携帯させています。」
社員達の声
「会社が目指している方向がわかりません。」
「社長や役員が何を考えているのかがわかりません。」
先日も、ある企業から、「理念経営は実践しているつもりですが、より理念を浸透させるやり方はありませんか?」と相談を受けました。世の中には、この企業に限らず「理念経営」を浸透させようと試行錯誤している企業が数多くあります。
しかし、理念を唱和したり、クレドカードを携帯させるような行動が本当に理念の共有や浸透に繋がっているか、検証をする必要があるでしょう。
理念経営において、浸透や共有のための仕組みは重要ですが、より本質的に意識をすべきことは、「会社と社員のモノガタリを紡ぐこと」だと考えています。
「会社のモノガタリ」とは
社長がどのような想いを持ち、何を実現したくて会社を設立したのか。それが、そもそもの会社の経営理念なのではないか、と思うのです。
そして、このような理念、言い換えれば、「会社のミッション」や「理念に基づいた使命」というのは、創業メンバーの間では共有されていることが多い。
しかし、創業から5〜10年ほど経つと、新しく採用される社員は「ある程度文化や仕組みができあがった会社」に入ってくるようになります。この頃から、創業当初の想いが「引き継がれない」ことが増えてきます。
先日、ある企業の社長や役員達と話していて、こんな声がありました。
辞めていく社員達からは、「会社がこうしてくれない」「会社が。会社が。」という言葉ばかりが出てくる。しかし、創業メンバーからしたら信じられない。「自分自身が、会社なのではないか?」
「会社が。会社が。」という社員は、その社員自身が何かをあたえられる者だと思っているのでしょう。会社のモノガタリに参画している意識が薄い社員が、その会社を含めて多くなっているように感じます。できあがった会社に入ってくるような社員達は「自分が会社を作っている」という意識が、創業メンバーに比べて薄くなっています。
「社員のモノガタリ」とは
自分自身の働きがい、自分の夢がこの会社で実現できる実感、自分の価値観がこの会社と合っている…これらを日々の業務の中で実感することができること。
これらが、会社で働く社員のモノガタリになります。
「この会社で働いていれば、自分の夢が叶いそうだ」や、「自分の業務がお客さんに喜ばれて、こんなにやりがいを感じることができる」など。
大事なことは、「日々の業務が、社員自身の夢・使命感・価値観の実現やモノガタリになっているかどうか」なのです。
これらの「社員のモノガタリ」というのは、決して会社のモノガタリと相反するものではありません。必ず、会社のモノガタリと何かしら一致するはずです。また、「社員のモノガタリ」の中でも、会社の理念を自分自身が体験したようなモノガタリが大事になります。
「モノガタリを紡ぐ」とは
織物には、縦糸と横糸があります。縦糸と横糸がうまい形で紡がれていくと、いい織物が出来上がっていきます。会社も、この織物がおられていく過程と同じと考えてみるといかがでしょうか。
「縦糸」=会社の理念。創業からずっと続いている、会社の軸となる糸。
「横糸」=社員1人1人、社長・役員を含む、一人一人の物語の糸。
これらの糸が良い形で紡がれていくかどうかは、社員達が日々の業務の中で、やりがいや自分の将来の夢、価値観をどれだけ感じることができるかどうかにかかっています。
上司がすべきことは、社員達が日々の業務の中でこれらを感じたり、ふりかえったりすることができる時間を作ることだと思います。理念経営を進める上で、もちろん日常的に理念を唱和したりクレドカードを携帯することも重要ではありますが、その行為がきちんとモノガタリの振返りに繋がっているか、例えば、
・今朝唱和したような理念を体感するような出来事が昨日あったか
・クレドカードに基づいて行動した中で良かったことや失敗したことはあったか
・日々の業務が自分自身のやりがいや使命感につながっているか
といったことを、日々の中で実体験し、それを振り返りができているかどうか。上司、役員、社長は、社員達が日々の業務を通じてこれらの体験ができるような環境を作ることが大事。
そして、一番大事なことは、社長や役員達が、自分達の行動が会社の理念につながっているかどうか、日々振り返ることが大事。
「モノガタリを紡ぐ」には、モノガタリを言語化する、可視化することも、重要な手段となってきます。
以上